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2021.12.8
M&Aアドバイザリーの役割と業務内容|契約時の確認点や報酬も解説
INDEX
M&Aを進めるなかで重要な「M&Aアドバイザリー」。どのような役割を担うポジションなのか分かりづらく、コンサルとの違いも気になるところです。
この記事では、M&Aアドバイザリーを詳しく知りたい人に向け、具体的な業務内容や必要なスキル、報酬について解説しています。
さらに、契約に含まれる項目や締結時の確認点も紹介していますので、ぜひ参考にしてください。
M&Aアドバイザリーの役割とは
M&Aアドバイザリーとは、企業の売却や買収を希望するクライアントの利益を最大化するため、専門的な知識を活かしてサポートを行う存在です。
M&Aの知識だけでなく、法務・財務・税務・労務などそれぞれの専門知識が必要となるため、役割も大きく3つに分類されます。
次項では、それぞれの役割について詳しく説明しましょう。
財務アドバイザー
財務アドバイザーはファイナンシャルアドバイザーとも言われ、M&A取引における相談役・調整役・交渉役など中心的な役割を担う存在です。
相手候補の選定からクロージングまでプロジェクトすべての業務に関与することから、幅広い専門知識が必要となります。価格や条件交渉への助言も行うため、多くは金融機関やコンサルティング会社などが担当します。
法務アドバイザー
法務アドバイザーはリーガルアドバイザーとも言われ、M&Aを法務的側面からサポートする存在です。
契約書等の作成が主な業務となり、契約や資産、株主など法的リスクの有無を調査する「法務デューデリジェンス」も行います。法律知識を必要とすることから、多くは弁護士や司法書士が担当します。
会計・税務アドバイザー
会計・税務アドバイザーは、M&Aの複雑な会計・税務に関するアドバイスや支援を行います。
「バリュエーション」と言われる企業価値判断や、財務・税務分析を行う「税務デューデリジェンス」が主な業務です。主に会計士や税理士が担当します。
M&AコンサルとM&Aアドバイザリーの違い
M&Aにかかわる人材としてコンサルも挙げられますが、アドバイザリーとの違いはサポートを行う範囲です。それぞれ次のような特徴があります。
- コンサル:特定の問題に対してアプローチするため対応範囲は狭く、短期間の契約が多いのが特徴です。組織内部での活動が多いため、短絡的とはいえ社員との関係が深まることがあります。
- アドバイザリー:組織そのものに対してアプローチするため対応範囲は広く、契約期間も長い傾向です。組織内での活動や社員と接することはほとんどありません。
M&Aアドバイザリーの業務内容
ここからはM&Aアドバイザリーの主な業務内容を、7つに分けて具体的に紹介します。
1.戦略やスケジュールの立案
1つ目の業務は、戦略立案です。組織にとってM&Aが有効な手段であるかの評価をはじめ、分析や目的の明確化、市場調査などにより具体的な戦略を策定します。
また、M&A取引の全体スケジュールを作成する作業も含まれます。
2.M&A候補の選定
候補先の選定では、戦略にマッチングする企業をリストアップします。組織の意向を踏まえた20~30社程度のロングリストに加え、8社程度のショートリストも作成し、優先順位をつけていきます。
売却側に属する場合は、匿名で企業情報を掲載したノンネームシートの作成も必要です。
3.M&Aの取引交渉
交渉方法の検討も重要な業務です。
方法には直接交渉のほか、仲介会社やFAを介した交渉、M&Aマッチングサービスの利用が挙げられます。交渉戦術の立案に加え、交渉で生じた問題に対するサポートやアドバイス、ときには代理交渉を行う場合もあります。
4.デューデリジェンス
デューデリジェンスとは、買収企業が対象企業(売却側)の価値やリスクを調査し、分析することで、M&A成功のためには必要不可欠な手続きです。
財務・税務・法務・人事・ITなど総合的に精査しますが、分野が多岐にわたるため、弁護士や税理士など専門知識を有したアドバイザリーがそれぞれ業務を行います。
5.契約書の作成サポート
複雑なM&A取引では、スムーズに進めるためにプロセスごとに契約書の締結が必要です。契約書の作成には法律知識が必要なため、弁護士や司法書士が担当します。
基本的な契約書は次のとおりです。
- 秘密保持契約書
- 基本合意契約書
- 最終契約書
- 株式譲渡契約書
6.バリュエーション(企業価値評価)
バリュエーションとは、買収対象企業の価値を計算・評価して金額を決定する作業です。
M&Aアドバイザリーとして組織の利益最大化を求められるフェーズでもあり、大きく3つの手法に分けられます。
- コストアプローチ:貸借対照表にある純資産と負債から評価
- インカムアプローチ:対象企業が将来獲得するキャッシュフローから評価
- マーケットアプローチ:すでに市場で成立している価値から評価
7.ポストマージャーインテグレーション
ポストマージャーインテグレーション(PMI)とは、M&A後に行われる組織統合におけるプロセスのことです。
M&Aアドバイザリーは、プランの策定、進捗管理、マニュアル整備、シナジー効果創出計画など多くの役割を担います。
企業価値や社員のモチベーション低下、成長損失を防ぐためにもスムーズな実施が不可欠となり、実務処理に関するアドバイスやITなどの専門家斡旋を行う場合もあります。
M&Aアドバイザリー契約における報酬体系
M&Aアドバイザリーの報酬体系は、仲介会社やアドバイザリー会社によって異なります。
ここでは、代表的な4つの報酬と算出方法について紹介します。
着手金
着手金は業務を依頼する際に、仲介会社やアドバイザリー会社に支払われる報酬です。M&A取引の結果にかかわらず支払われ、成功しなかった場合でも返還の必要はありません。
最近は着手金が発生しないところもありますが、50~200万円が相場であり、組織の資産規模によっても変動します。
出典:アドバイザリー契約とは?契約の目的や注意すべき7つのこと | THE OWNER
中間報酬
中間報酬はM&Aの対象企業が決定し、基本合意書が締結した段階で支払われる報酬です。
成功報酬の一部と考えられ、成功報酬額の10~20%程度であることが多く、仲介会社やアドバイザリー会社によっては支払われない場合もあります。
出典:アドバイザリー契約とは?相場や種類、契約の役割を解説 | M&A・事業承継の理解を深める
M&Aが成功しなかった場合でも返還の必要はありません。
月額報酬
月額報酬はリテイナーフィーとも言われ、顧問料・コンサルティング料として月額固定でM&A成立まで支払われることが多い報酬です。
仲介会社やアドバイザリー会社によっては支払われない場合もあります。
成功報酬
ほとんどの会社で発生し、M&Aが成立した際に支払われるのが成功報酬です。多くがレーマン方式で算出され、計算する際のベースが異なると成功報酬額も変動します。
レーマン方式については次項で解説していきます。
レーマン方式
レーマン方式とはベースとなる金額に応じて、一定の報酬料率を掛けることで成功報酬額を算出する方法です。
金額が大きくなるにつれて報酬割合が小さくなります。以下がレーマン方式の一般的な体系表です。
ベースとなる金額 | 報酬料率 |
---|---|
5億円以下の部分 | 5% |
5億円を超えて、10億円以下の部分 | 4% |
10億円を超えて、50億円以下の部分 | 3% |
50億円を超えて、100億円以下の部分 | 2% |
100億円を超える部分 | 1% |
ベースとなる金額は取引額・移動総資産・譲渡価格・企業価値など会社によって異なります。例として取引額が10億円の場合を算出してみましょう。
(例)取引額が10億円のケース |
---|
取引額の5億円以下の部分:5億円×5%=2,500万円 |
すべてを合計すると成功報酬額は、4,500万円となります。
M&Aアドバイザリー契約に含まれる項目
M&Aアドバイザリー契約にはどのような内容が含まれるのでしょうか。契約時の主な項目を紹介します。
項目 | 概要 |
---|---|
契約企業の情報 | 契約者を明確にするために企業情報を明記 |
業務委託内容 | 取り組むべき業務内容 |
業務範囲 | 委託内容に対して行う業務範囲 |
着手金 | 着手金支払いの有無・金額・期日 |
コンサルティング料 | 支払い額・報酬体系(定額や時給など)期日 |
費用負担について | 業務遂行の際に負担した費用の支払いについて負担者を明記 |
再委託禁止について | 第三者への業務委託について禁止 |
秘密保持範囲 | 第三者への情報開示・漏えいの禁止
例外がある場合についても明記 |
契約の有効期限 | 契約期間や期間延長など |
契約解除について | 契約解除に関する項目を記載(支払いの遅延・ペナルティなど) |
その他取り決め事項 | 契約書に記載がないものや、事前に決めておくべき事項について |
M&Aアドバイザリー契約を結ぶ際に確認すべき点
M&Aアドバイザリー契約の主な項目を紹介したところで、締結する際にチェックしておくべき点についても確認しましょう。
契約方式
まずはどのような契約方式であるか把握しておきましょう。
M&Aアドバイザリー契約には「専任契約」と「非専任契約」の2つがあり、違いは次のとおりです。
- 専任契約:企業は契約した会社とのみM&Aを進める
- 非専任契約:企業は複数の会社と契約を結べる
専任契約が主流となっており、企業側としては情報漏えいのリスクを低減できます。また、アドバイザリーもほかに先を越される心配がないため、プロジェクトに集中して取り組め、情報の出し方をコントロールできるメリットがあります。
一方、非専任契約は企業側としてアドバイザリーとのミスマッチを防ぎ、アプローチ先を拡大できるメリットがありますが、情報漏えいのリスクは高くなります。
M&A交渉方式
交渉にも「仲介方式」と「アドバイザリー方式」の2つの方式があります。
- 仲介方式:同じ仲介会社やアドバイザリー会社が買収側と売却側の両方を仲介
- アドバイザリー方式:買収側と売却側がそれぞれ異なる仲介会社・アドバイザリー会社と契約
仲介方式は中小企業のM&Aに多く、対立構造を作らずに中立な立場でサポートできます。
アドバイザリー方式では、利益最大化のために相手企業の選定や譲渡価格などの条件面を柔軟に調整できるメリットが挙げられます。
報酬や費用
発生する報酬の項目、支払いのタイミング、算出する際の基準となる金額を確認します。
とくにレーマン方式では、ベースとなる金額により報酬が異なるため十分な確認が必要です。また、事前説明と契約書で齟齬がないかもチェックし、可能であれば具体的な金額の見当がつくとなお良いでしょう。
業務委託の内容・範囲
スムーズなM&Aを実現するためにも、業務委託の内容や範囲の確認は重要です。
自身の経験や知識に沿うものであり、範囲外の業務まで行うことがないように担当する範囲や内容はできるだけ細かく、明確にしておく必要があります。
自動契約更新の有無
M&Aアドバイザリー契約では、多くが自動更新とされています。
取引や手続きにどのくらいの期間が必要かは予想が難しく、長期間になる恐れがあるためです。自動更新を定めていない場合は確認をおすすめします。
契約解除の可否
途中契約解除が可能であるかどうかも、トラブルを避けるためにチェックしたいポイントです。
期間を定めた事前通知による契約解除の申し出が可能か、違約金などのペナルティや契約解除事項について確認しておきましょう。
M&Aアドバイザリーの年収
M&Aアドバイザリーの年収は、勤務する企業やアドバイザリー会社、担当する案件の規模などによって異なります。厚生労働省発表の令和2年賃金構造基本統計調査では、全国平均は773.9万円です。
高い経験値がある人はヘッドハンティングにより高収入が望めるケースもあります。東洋経済オンライン調査の年収ランキングを参考に、主な企業と比較してみましょう。
企業名 | 年収 |
---|---|
全国平均 | 773.9万円 |
M&Aキャピタルパートナーズ | 2,478万円 |
GCA | 2,063万円 |
ストライク | 1,539万円 |
日本M&Aセンター | 1,413万円 |
M&Aアドバイザリーに求められる資格・経験・スキル
M&Aアドバイザリーとなるにはどのような資格やスキルが必要なのでしょうか。
求められる資格・経験・スキルについて解説します。
資格
M&Aアドバイザリーに必須の資格はなく、法人・個人問わず業務が行えます。しかし、業務内容が多岐にわたることから、広範囲かつ専門的な知識は必要です。
とくに優遇されるのは司法書士、弁護士、中小企業診断士、MBA、公認会計士(日本・米国)、税理士、ファイナンシャルプランナーといった資格でしょう。
すべての分野を1人で精通するのは難しく、求められることもないため1つの専門分野が確立されていれば役割は果たせると言えます。また、国家資格はありませんが、専門家であることを証明する以下のような民間資格は存在します。
- M&Aエキスパート認定資格
- M&Aスペシャリスト資格
- JMAA認定M&Aアドバイザー
- 事業承継士
経験
M&A取引業務に携わった経験の有無は重要であり、経験があれば優遇されます。
また、法人営業、財務分析、コンサルティング、戦略・企画立案、金融機関の財務部門といった経験も優遇される傾向にあります。
スキル
M&A取引において調整や交渉が必要であるため、高いコミュニケーションスキルは必須の能力です。また、円滑なプロジェクト進行にはマネジメント能力も求められます。
さらに、対象企業の業界知識を都度学ぶ必要があるため、旺盛なチャレンジ精神や新しい業界・領域への好奇心が強い方も歓迎されやすいです。
OfficeソフトなどのPCスキルのほか、クロスボーダー案件では英語力も必要です。
M&A業界への転職をお考えの方で、必要なスキルや資格、仕事内容をより詳しく知りたい方は、以下の記事もぜひ読んでみてください。
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まとめ
M&Aアドバイザリーは、M&Aにおいて企業の利益最大化を実現するためのサポート役です。
業務内容は多岐にわたり、幅広い専門知識やスキルを必要とします。報酬体系は仲介会社やアドバイザリー会社によって異なりますが、高い経験値があれば高収入も実現可能です。
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